骨粗鬆症

骨粗鬆症による骨折や痛みの発生の治療では、虚証と実証の鑑別がまず必要です。

時に、固定観念のように痛みの原因を、「不通則痛」(通らなければ、すなわち痛みが生じる)ととらえて活血剤などを選択する方も少なくありません。

虚労の弁証論治では、気血陰陽を幹とし、五臓の虚証を枝葉と考え、先ず気虚、血虚、陽虚、陰虚などを鑑別して、次に病気の部位を判断します。

治療に当たる際には、十分に虚実の鑑別に心がけて弁証論治を行ってほしいと思います。

骨粗鬆症の治療は非常に難しいですが、痛の原因を治療することが肝要です。

Posted in 漢方薬 | Leave a comment

歯の揺れに補腎だけでは効かない

「歯の揺れ」の治療は補腎が主になりますが、補腎薬による治療で効果が得られない場合もあります。
何故でしょうか?

原因は、病理分析が不十分であることが考えられます。
歯の揺れは腎虚だけではなく、虚火上昇による歯の揺れも含まれます。この病理結果は腎陰虚が進み、虚熱が上昇する段階に入るものです。

虚火が上昇する場合は歯の揺れ、寝汗、目眩、喉の乾き、疲れが酷く感じ、脈細数、舌尖紅等の症状が現れます。

腎陰虚+虚火上昇の治療は、玉女煎で治療します。
この方剤は日本では販売されていませんので、代用方法として、六味地黄丸+白虎加人参湯で治療します。

腎陰虚と虚火の状態をよく判断して、六味丸と白虎加人参湯の割合を決める事が肝要です。

Posted in 中医学アカデミー, 漢方薬 | Leave a comment

肺気虚と便秘との関係

肺気には、「宣発」と「粛降」のふたつの力があります。

粛降は、肺にあるごみを処理して、大腸の伝導作用を応援します。
長期間の咳、喘息、自汗などの病気を患い、また継続して激しいスポーツを行う場合は、肺気虚が生じやすくなります。

肺気虚による便秘では、便意があっても排出しにくい、便は乾燥せず硬くもないなどがみられ、排便時にいきむと汗が出やすく呼吸が乱れやすくなります。
また、その他の特徴では、疲れやすい、顔色が白くつやつやするなどが見られます。

臨床では、便が出にくい、お腹が張りガスが臭うなどと訴えます。
治療法では、玉屏風散や麻子仁丸で調整します。虚実弁証で両方剤の割合を決めます。

Posted in 中医学アカデミー, 漢方薬 | Leave a comment

小児の夜泣き 心熱と脾寒気滞の鑑別

中医児科(小児科)では「夜泣き」の弁証の中で、
「脾寒気滞」と「心熱」による夜泣きの区別を挙げていますので、其々の鑑別要点を紹介します。

◎脾寒気滞の特徴

泣き声が低くて弱い、泣いたり止んだりを繰り返す、体が曲げながら寝る事が多い、四肢が冷たい、便が水っぽい、舌淡紅などが見られます。

◎心熱の特徴

泣き声が強くて大きい、灯りがつくと更に泣く、泣いた時に顔が真っ赤になる、便秘、小便の色が濃い、舌赤などが見られます。


●脾寒気滞の治療
安中散と小柴胡湯を用いる。

●心熱の治療
黄連解毒湯と竜胆瀉肝湯を用いる。

この他に、酷く驚いたり怖い思いをしても夜泣きに繋がります。

Posted in 中医学アカデミー, 漢方薬 | Leave a comment

ストレスに対する漢方治療

「ストレス」は、中医学で「肝鬱気滞」に属する病証を指します。
肝鬱気滞は、精神が安定しない、心配ごとが多く考えすぎる、イライラするなどによって起きます。

また病理特徴は、体内の気の流れが順調に調達出来ないことで発生しますが、気滞が発生する部位によって生じる症状に違い現れます。

■胸に気滞が生じた場合は、呼吸の乱れ、胸の張や圧迫感などの症状が見られます。
■頭に影響を及ぼす場合は、頭痛、頭が重い、視力が低下するなどの症状がみられます。

肝鬱気滞の影響は、胸や頭に多く、仕事の効率が低下します。

—————————————————————————
<肝鬱気滞の漢方治療>
—————————————————————————

肝鬱気滞とは、肝気疏泄という機能が故障し、体の気の流れが滞る状態となる病理を指しています。この病理特徴への判断要点は、症状の特徴に現れます。

気滞という病理状態はいくつかありますが、例えば、気滞の状態が治らないなら肝経鬱熱となる場合もあれば、元々脾胃気虚があれば、気滞が脾胃へ影響を及ぼし肝鬱犯脾となる場合もあります。

また、肝鬱気滞が酷い場合では、直接に肺へ影響を与え、肝気犯肺となることもあります。気滞が直接に血液の流れへ影響を及ぼせば、気滞瘀血となることもあります。以上の病理変化に対する治療方法は異なり、治療方剤も異なります。

例えば、肝経鬱熱による発熱の場合は加味逍遙散で治療します。

■肝鬱犯脾による泄瀉の場合は痛瀉要方で治療します。
■肝気犯肺による喘息の場合、五磨飲子で治療します。
■気滞瘀血による脇痛の場合、旋覆花湯などで治療します。

このように肝鬱気滞を治療する場合、肝鬱だけではなく、肝鬱気滞がどのような病理変化を引き起こしているかをチェックする必要があります。逍遥散或いは加味逍遙散で治療する傾向は、弁証論治の立場から見るとまだ不完全だと考えられます。

Posted in 中医学アカデミー | Leave a comment

生徒さんの質問 九仙散

方剤学を学ぶ受講者からの質問をご紹介します。

<質問内容>
斂肺止咳薬の勉強で、九仙散を学びました。
肺陰が損なわれ、咳が止まらないときに使うとありますが、これは咳嗽でいうところの肺陰虧耗にも使えますか?


<回答>
九仙散は、斂肺止咳剤に属す方剤で、肺の気陰両虚による肺気不降と肺気不守(肺気の発散が過剰です)の病証を治療する方剤です。
例えば、慢性咳喘・多汗・慢性気管支炎などが肺気陰両虚による肺気不降と肺気不守の病理に属せば用いることができます。
配合の特徴は、収斂固渋を主な効能とする肺虚久咳に用いられる烏梅・罌粟殻が配合されています。

一方、咳嗽の肺陰虧耗では、軽宣潤燥剤に属する沙参麦冬湯が代表方剤です。
軽宣潤燥剤は、外感涼燥或は温燥を治療する方剤を指し、沙参麦冬湯は、清養肺胃・生津潤燥の効能があり、燥邪が肺胃の陰液を損なう病証の治療に優れています。

ご質問の肺陰虧耗による咳嗽の治療に九仙散が用いてもよいかですが、咳嗽は六淫の感受から始まり内傷咳嗽に発展した病証で、肺陰虧耗の場合は、午後の潮熱・頬紅・五心煩熱・夜寐盗汗・舌質紅・少苔・脈細数など陰虚内熱の徴候が見られるのが特徴です。

九仙散は、肺の気陰両虚による肺気不降と肺気不守の病証を治療する方剤であるものの陰液を滋養し、生津潤燥に働く補陰薬の配合はありませんので、肺陰虧耗の場合には適切とは言い難いです。

しかし、肺の気陰が共に耗散した場合(気陰両補)の慢性咳嗽を治療する場合には、補陰では効果が得られないことがあります。

この場合は、収斂に働く九仙散などを利用すべきです。
一般的な慢性咳嗽の治療で症状の改善が見られない場合は、収斂の方剤も考慮してください。

Posted in 中医学アカデミー, 漢方薬, 過去問題解説 | Leave a comment

あなたは熱のある人?それとも?

漢方相談で「あなたは熱がある人ですね」と言われたことありませんか?

中医学(漢方)でいう「熱がある」はカゼや病気による「発熱」とは異なり、体温計で計測しても平熱のままです。

この「熱」によって起きる症状としては、口渇(口中やのどが激しくかわき、水分を欲しがる状態)、舌の色が赤くなる、便秘や便が乾燥したりコロコロした状態、尿の色が黄色くなるなどの特徴が見られます。

これらの症状が当てはまる方は、唐辛子など辛味の食品やお酒の飲みすぎ、ストレスなどに気をつけられると良いかと思います。

また、体が熱っぽくなる場合は、発熱のほかに気虚、陰虚などが考えられます。
特徴としては、疲れやすい、疲労によって体が熱く感じることが挙げられます。

漢方処方を行う場合は、気虚や陰虚の判断を誤り、清熱薬を過量に用いれば、副作用を招きかねませんので注意が必要です。病気の症状の特徴を掴み、正確に病因病理の状態を把握してから効果的な漢方薬を処方する事こそが、中医学の主な目的です。
体に熱があるか_n

Posted in ブログ, 中医学アカデミー | Leave a comment

生活と治療に欠かせない陰陽と五行

中国では、陰陽や五行に関する理論が生活の中にも深く浸透しています。

例えば、「乾坤(けんこん)」は、易の卦(け)で中国数字や和算で用いられた算木に現れる種々の象を現わすもので、人生や事柄の吉凶を占う目的で用いられています。

「乾坤」の意味には、天と地、陰と陽の意味が含まれいて、男女を陰と陽で表せば、陽(乾)が男性、陰(坤)が女性になります。

昔から中国では、女性がみにつける腕時計を「坤表(こんひょう)」と言います。

中医学では、病気を治療する場合に、まず陰陽の弁証を行わなければならないという原則があります。

陰と陽の関係は固定した概念だけではなく、主に立場により変化します。

例えば、

★心と足の関係では → 心が陽で足は陰
★心と頭の関係では → 心は陰、頭は陽

というように相手によって異なります。

固定した概念ではなく、このような関係を理解した上で弁証を行えば、適切な方剤を選択することができるようになります。

治療の目的は、体の陰陽バランスが保たれている「陰陽平衡(いんようへいこう)」の状態に戻すことなのです。
乾坤_n

Posted in ブログ, 中医学アカデミー | Leave a comment

朝起きは苦手?漢方治療のポイント!

伊藤忠商事が、残業削減策として深夜残業を禁止し、早朝勤務を促す新たな制度を試験的に導入したというニュースをみました。

ニュースキャスターが「早起きの苦手な方は大変ですね」と、おっしゃていました。

太陽が昇り始める時間帯は「陽気」が陰気より強まるという認識があります。
体の陰と陽がバランスよければ、日が昇ると睡眠から目をさまし、暗くなれば体を休めるために眠くなります。

自然の流れを無視した生活環境が続いたり、なんらかの病気によって陰陽のバランスが崩れれば、夜になっても眠くならず、朝になっても目を覚ますことができなくなります。

悪い生活習慣を続けている場合は、内蔵の働きを阻害され、陰陽のアンバランスにつながります。

早朝勤務の流れに乗り遅れないためにも、体の陽気を上昇させる漢方薬の助けを借りると良いかもしれません。

<~ 漢方治療のポイント~>
内蔵の機能のどこが故障しているか、陰陽弁証の上に五臓弁証も考える必要があります。

無理やり早起きをすれば、陰陽のアンバランスがさらに悪化する場合がありますので注意が必要です。

眠気起きない_n

Posted in 中医学アカデミー | Leave a comment

日本で一番処方される漢方薬の過去問題

本日は、当校で用意しているたくさんの問題集から漢方薬の問題を少しご紹介します。

日本では「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」という漢方薬が一番処方されています。補中益気湯で、黄耆が君薬として多く用いられる意味はどれでしょうか?

1.補気生血

2.補気行血

3.補気行水

4.補気固表

5.補気昇陽


--------------
<正解は>

5.補気昇陽です。
--------------

<解説>
■1は当帰補血湯の黄耆の意味です。
■2は補陽還五湯の黄耆の意味です。
■3、4は防己黄耆湯の黄耆です。
■5は補中益気湯の黄耆の意味です。

従って、選択肢5を選びます。

この問題を通じて、黄耆の配合意味、関連法剤などを学ぶことが出来ます。
同じ黄耆でも、配合により意味はかわることを深く理解出来れば、治療効果の向上に繋がります。

当アカデミーはこのような問題を生徒に挑んでもらう目的は、問題の解決能力を高めることを通じて、複雑な症状への分析力と判断力、また漢方処方の運用能力を育てることです。

face_0930

Posted in 中医学アカデミー | Leave a comment