7つの感情に気をつけよう



人間が陽間(ヤンジェン)で生きている証ともいえる「神(シン)」は、人の生命力に大きく関わっており、中医学でも神を診ることはとても重要です。

神は、顔つき、眼力、思考力などで安定しているかどうかなどを診断しますが、その神を不安定にさせ五臓にダメージを与えるものとして、7つの感情があると言われています。

それが、「怒る、喜ぶ、憂う、思う、悲しむ、驚く、恐れる」です。

これら7つの感情を調節しているのが肝臓ですが、それぞれの感情が過ぎると肝臓の気が消耗されて機能が落ち、気血の流れが停滞して神が不安定になります。

その結果として陰陽バランスが崩れ、他の臓器にも悪い影響を与えるので、いろいろな病気が生じます。

こんな逸話が残っています。

時は12世紀、中国史上最大の英雄の一人・岳飛が活躍した時代の話です。

北方民族の侵略に苦しめられていた宋国は、勇将・岳飛のもと、当時、最強を誇る金国の猛攻を必死に食い止めておりました。

その岳飛の配下に牛皋(ニュウガオ・ギュウコウ)という将軍がいました。

ある戦いで、金国の将軍・兀术(ウジュ)と一対一の決闘となり、なんと牛皋が兀术を組み伏し馬乗りになって殴りつけたのです。

世界一ともいわれた軍隊の大将であり、才能、武術に優れた猛将・兀术はその恥辱に激昂し、怒りのあまり憤死してしまいました。

牛皋は、というと、金兀术を倒したという信じられない奇跡に狂喜し、その喜びのあまりこちらも死んでしまったのです。

病は気から、は単なる精神論ではありません。

時には命をも奪いますので、「放松(ファソン)=リラックス」して感情の調和に努めましょう。



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中国では、あの世・この世も陰・陽



前回、天国に届ける紙銭(ツーツェン)の話をしましたが、中国では死後の世界のことを、実際は天国とは言わず、「陰間(インジェン)」と言います。

一方、人間が生きている間にいる世界を「陽間(ヤンジェン)と言います。

中国では、あの世・この世も陰・陽なのです。

陽間には(陽)気があり、そこに住む人間の心の中には神(シン)が存在し、神に宿る気や血液を滋養して動かすことで人は動けるわけです。
そして陰陽のバランスをとることで人間は生きています。

一方、亡くなった方の住む世界・陰間には陽気がまったくありません。
ですから陰間では人間の体は動きませんが、魂は存在する世界であると考えられています。

さて、人が死んだということを、中医学では「陰陽離決」(インヨウリケツ)とも言います。

魂が陽を離れていくイメージでしょうか。

陰陽離決の原因には、
「陰盛格陽」(インセイカクヨウ・陰が強くて陽を追い出す)と
「陽盛格陰」(ヨウセイカクイン・陽が強くて陰を追い出す)の二つがあります。

いずれにしても、この陰陽離決の前に、実際はいろいろな状態・病態があるわけで、西洋医学では「(副作用もしくは末期症状だから)仕方ない」とされる部分でも、中医学ではそれぞれの症状に応じた救命方法があり、延命だけでなく治療の可能性があるものもたくさんあるのです。

ですから「中西医結合」は非常に可能性のある医療方法と思うのですが、もったいないことに、中国でも現代は中医学の妙技を最大限に活かすよりも西洋医学に偏りつつあります。

もっとポイントポイントで漢方の救命方法を使えれば、末期症状での対処法や蘇生の可能性も高いのではないかと思っています。

漢方の救命方法、つまりその弁証論治や処方の最大の目的は、陰陽のバランスをとることにあります。

「健康でない」ことも陰陽不均衡が原因ですが、「危篤状態=死にかけている」ということは、体内のあらゆる部分で陰陽のバランスが崩れている状態といえます。

そして同じ危篤状態でも、陰盛格陽と陽盛格陰では、臨床特徴や治療方法もまったく違ってきますからご注意を。 



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紙幣の火の粉飛び交う中国のお墓参り



お墓参りといえば、中国で日本のお盆やお彼岸にあたるのが清明節。
毎年だいたい4月5、6日あたりですが、この日は中国全土でお墓参りラッシュ!
ものすごい人出です。

中国でお墓参りの基本アイテムといえば、「紙銭(ツーツェン)」です。
神様とご先祖様(や友人)に捧げるお金で、焼いて天国に届ける疑似紙幣のことですが、黄色い紙のものや、歴史上の皇帝が書かれたものなど、色鮮やかな紙幣が束になって売られています。

これをお墓でボウボウと燃やすわけですが、たくさん燃やすほど裕福な感じがあり、「うちの先祖に苦労はさせない!」とばかり、あっちもこっちも張り合うようにモクモクと煙がすごいです。

燃やしてしまうものなのに、それなりのお値段ですから、もったいない気もしますが、そこは気持ち(見栄?!)。

一緒にお供えするお線香も1本20~30元(約540円?)のものが出回ります。

日本でも高いお線香がありますが、亡くなった人(陰間<インジェン>に行く)のためにけっこうな出費するというのは、中国も日本も似ていますね。



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母の置き土産



私の母は10年前に肺がんで亡くなりました。
それは悲しいだけでなく苦い思い出でもあります。

母は癌治療で有名な北京の大病院に入院し、本人の希望で化学療法を受けていましたが、その副作用に苦しんでもいました。
亡くなる一週間ほど前に危篤状態に陥り、錯乱したり譫語(せんご:声が大きい、明瞭なうわごと)を言ったり、罵声もありました。
それに対して医師たちの見解は「放射線治療の副作用だからある程度は仕方ない」というものでした。

私が今でも後悔していることが二つあります。

一つは、化学療法メインでの治療を望んだ母の意思を尊重して、「漢方薬も併用しよう」と言い続けることをあきらめてしまったこと。

でも癌治療は体力を補いながら治療するのがベスト。
それにはやはり漢方薬は有効なはずだった。

もう一つは、譫語のとき舌を見たらとても赤かったのに手を打てなかったこと。 

これは、「熱擾心竅(ねつじょうしんきょう・熱が心を混乱させる)」という症状ですが、私は母が死にかけていることに動揺していたこともあり、熱擾心竅の症状だと思いつかなかった。
いや、勉強不足で気つかなかったと言うべきでしょうか。

中国に「書到用時方恨少」という言葉があります。
本が必要になったときに、持っている本が少ないことを恨めしく思う、つまり、いざ知識が必要になったときに、常に勉強してこなかったために正確に対応できなくて後悔するという意味です。
この諺を私はもちろん知っていましたが、身をもって思い知らせ、歯ぎしりする思いでした。

もし「熱擾心竅」を正確に弁証論治し、母に必要な漢方薬を飲ませてあげられていたら、母は危篤状態から回復する可能性があったかもしれない。
そう思うと、今でも本当に悔しい。

その後、父が脳卒中で倒れたときは、母の二の舞にしないために自宅での療養を選び、必要な漢方薬を一週間ぐらい飲ませました。
すると危篤状態から徐々に回復していきました。
少しは母の時の経験を活かせたかもしれません。

父は90歳ですが、今も元気に暮らしています。

中国から日本に戻るときは、中医師として「いざというときに使えないような学び方は二度とするまい」という決意を胸に刻み込んでくれた母のお墓参りに行くことにしています。

何年たっても、一抹の寂しさや虚しさが消えることはありませんが…。



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馬雲(3)筋を通して世界を変える!



馬雲のお話も最後です。

今回は、私が心を動かされた彼の人となりを紹介します。

杭州出身の馬雲氏は、実は高校時代は劣等生。
ようやく合格した師範学校を卒業後、英語教師を経ての起業という、シリコンバレーの人々とはちょっと違う、異色の経歴の持ち主です。

師範学校を出ても教師を途中で放棄して他の仕事につく人も多い中(下海(シャーハイ)という)、馬雲氏は、IT事業の構想を持ちながらも、師範大卒の義務として3年間は教員をきちんと勤め上げ、きっかり3年後にアリババを立ち上げました。

このように約束を守る、筋を通すというところも立派だなと思います。
特に興味深かったのは、「中国の空気をきれいにしよう!」と発言していること。
中国では一般の人たちの食べ物に汚染問題があったり、水も不安定な環境にあるそうです。

ただエリート階級だけは、安全な「特供(特別提供)」のものを入手できるため、多くの汚染について上層部は改善にそれほど必死でないともいわれています。

「でも空気は?」と馬雲氏は問います。

空気だけは特供を受けられない。「エリートの皆さんだって安全な場所はもうない。だからこれから中国を変えなきゃならない。みんなで一緒に空気をきれいにしましょう!」というスローガンを掲げました。

自分たちさえ儲かっていればそれでいいとは考えない。
中国をいい国にするために、大きな壁があっても信念をもって行動する。
そんな彼の人格にも感銘を受けました。

筋を通し、大局を見通し、夢に対しては不退転の信念。
自分もかくありたいと思わせる馬雲氏は、まさに人生の師です。



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馬雲(2) 土博士の意地



前回馬雲氏についてお話ししましたが、彼には非常に感動したので、その話をもう少し続けます。

時代の寵児のような成功者・馬雲も、何度も大きな失敗をしました。

まず、アリババが成功して資金ができると、さらなる発展のために優秀な人材集めに乗り出し、苦い経験をします。

中国では本土の大学の博士を「土博士」、海外の大学の博士を「洋博士」と呼ぶのですが、彼は、洋博士、つまり海外の大学で博士号を持つ教授や、ハーバード大学など欧米の有名大学のMBA保持者を大変な高給で募集したのです。

実際、たくさんの有資格者が馬雲の会社に入ってきたわけですが、しばらくすると皆去ってしまいました。残って支えているのは土博士ばかり。

ハーバード大卒やMBA保持者がアリババに来た理由は、「高給」であることと、「自分の知識、ノウハウを活かして自己実現したい」ということであり、必ずしもアリババを発展させることではなかったのです。

この教訓から馬雲氏は、大金を払って安易に能力のある人を引き抜いてくるのではなく、アリババを発展させるための優秀な人材を、大金を使って育てる方針に変えたといいます。

人材育成も経営手腕の一つかもしれませんが、馬雲氏も試行錯誤しているようです。

他にも、調子に乗ってアメリカに進出したところ、倒産寸前まで追い込まれ、中国に戻って再出発を余儀なくされた時期もありました。

アジアで一番の成功者でも、何度もどん底を味わっているのだと思うと、勇気が湧いてきますね。

その都度、改善して挑戦し直す不屈の精神にも頭が下がります。

ちなみに中国には、「過喜生悲(カキセイヒ・喜びが過ぎると悲しみが生じる)」という言葉があります。

事象としては、成功して有頂天になっていると、そのうち悲しいことが起きるということですが、これは中医学の心肺の関係でも理解できます。

五行説では、燃える火が強すぎると、金に属する肺をやっつけてしまうのです。

喜び過ぎると、心臓つまり心の気に宿る神の気が発散し過ぎて思考が的確でなくなりますし、悲しい気持ちが過ぎると、肺の気を消耗し肺気虚が現れます。

いずれにしても、嬉しいときには、まだ十分でないことを思い出して気持ちを抑えたほうがいい。日本の「勝って兜の緒を締めよ」ですね。

馬雲氏も、その後は商売繁盛でも手を広げ過ぎないようにしているようです。

もしかしたら中医学の理論を取り入れているのかもしれませんね(笑)。



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馬雲(1) 残業代0でも働く理由は?



仕事で中国に一時帰国する時はいつも、本を買うことにしています。
この1年で一番心に残った本は『馬雲の我的管理心得』でした。

皆さんは馬雲氏をご存じでしょうか?

1999年に企業間電子商取引(B2B)のマッチングサイト「阿里巴巴(Alibaba.com、アリババ・コム)」を立ち上げ、瞬く間に急成長させました。
中国のネットショッピングの最大手サイトを経営し、今や中国のみならずIT業界を席巻する「アリババグループ」を率いるのが馬雲(マーユン、英名ジャック・マー)です。

日本の孫正義さんのような存在といえるかもしれません。
彼は、商売したいと思っている人が、インターネットを使って、やりたい商売を自由にできる土台を中国に作ろうとした。それが売る人・買う人・関わる人といった多くの中国人を幸せにすると確信していたのです。
十数年前、それは中国では誰も考えないことでした。

馬雲は、「アリババ成功の大きな理由は、スタッフが一つにまとまれたことだ。このサービスでたくさんの中国人を幸せにしよう!という同じ夢をもつことができた。だから社員は「この残業代いくらなの?」といちいち主張するようなことはせずに、小さなオフィスに寝泊まりしながら、アリババを軌道に乗せることに邁進できたのだ。」と書いています

中傷や障害があろうとも、馬雲氏はゆるがぬ信念を持ち続けて前へ進みます。
そんなリーダーだからこそ、スタッフも彼の下にまとまることができたのでしょう。
残業代0円で働いてきた初期メンバーが当初持っていたのはアリババ社の0.1%株だけでしたが、今や彼らは皆、億万長者です!

皆が一つの夢に向かう力ってすごいですね。

ふと、このことは、心の神(シン)が安定すると五臓六腑がまとまり、その結果、人生の宝である健康を手に入れられる、という中医学の考え方に大変よく似ていると思いました。

現代は健康のためにいろいろな予防方法やサプリなどが出回っているわりに、癌などの発病率は減らず、医療が追いついていない分野も多々あります。
健康でいるためには医療だけに頼っていてもだめなのでしょう。
感情に翻弄されずに、まずは神を安定させることが健康の秘訣なのです。
漢方は神を安定させ、そして陰陽のバランスをとることを助けてくれます。

馬雲の本を読み、私も漢方で幸せになる人を増やしたいという思いを新たにしたのでした。



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温病学の故郷 蘇州を訪問



出張で上海を訪問したのを機に、足を伸ばして蘇州を訪ねました。

蘇州は長江の南側に位置し、人口は2000万人、太湖や上海蟹が育つ陽澄湖があり、運河による水運が発達した歴史ある都市で、近年では投資区域を有し産業の発展が目覚ましい地域です。

今も昔も蘇州には資産家が多く住む町としても知られています。

蘇州と言えば、絹織物が盛んで、蘇州刺繍や上海蟹が思い浮かびますが、忘れてならないのが、温病学の故郷であることです。

温病学の歴史は古く、中医学における熱病伝染病の治療を記した学問です。

温病は、突発的に発生し、症状の変化が早くまた強い伝染性を伴う病気で、まだ抗生物質の無い時代に対応し発展したのが温病学です。

時に、温病学は現代ではあまり用いる機会がないのでは…、と言われる方もおりますが、近年の気候温暖化や様々な新型ウイルスによる病気の発生を見ると、温病学が役立つのではないかと思っています。

実際、2002年中国でSARSが大流行した際には、一部の病院で温病学説に従った治療が施されたと聞いています。



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アンチエイジングの注意点② ~病気への弁証論治をお早めに~



病気になったり、不調になったら、早めに漢方のプロに相談し、正確に弁証論治で治療してもらうこともアンチエイジングにつながります。

なぜなら、病気がまだ軽い状態は陰陽のバランスを戻しやすく、精気の消耗が少ないうちに治療できるからです。

病気は浅いところから時間とともに深いところに入っていき、変化が多くなっていきます。

すると虚実混雑(きょじつこんざつ)の状態になり、治療が難しくなります。

ここまできてしまうと、精気もかなり消耗し、陰陽のバランスが壊れていますから、病気で苦しいだけでなく老化も進んでしまうのです。

誰にでも合うアンチエイジング剤なんて存在しません。

あなたに合った漢方薬をオンリーワンの漢方薬局で相談されることをお勧め致します。



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アンチエイジングの注意点① ~(陰陽のバランスをとろう)~



アンチエイジングは、いま最も注目されるキーワードの一つのようです。
中医学では、アンチエイジングを二つの見方で理解しています。

一つは、腎でつくられる精気を多く保つこと。

精気の量は三十代ぐらいがピークです。

そこから年齢とともに徐々に少なくなり、精気がなくなると命が消えることになります。
ですから、なるべく自分の精気の量を保ちながら、精気を省エネで使う。
もしくは途中でどんどん補うことが必要です。

その際に、精気にも陰陽がありますから、その平衡を保つことも重要です。
バランスが悪いと、精気が激しく消耗されてしまいます。

もう一つは、食品やサプリなどを利用したり、生活を改善すること。

ただし、何かを体に摂取する場合は、自分の体質が陰精が不足しているのか、陽精不足なのか鑑別した上で取り組まないと、これまた陰陽のバランスが悪くなります。
無駄に精気を消耗し、逆に老化を進めることになりますからご注意ください。

また、陰と陽の自然の流れに従って生活することもアンチエイジングに有効です。

朝日とともに起床、朝と昼はしっかり食べる。
夜中の「12時」に向かって徐々に陰と陽が切り替わりますから、夜は早く寝る。

このような規則正しい生活も非常に大切です。



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