「中医学」という言葉

日本で、中医学(ちゅういがく)という言葉が使われるようになったのは、まだ数十年前のことで、以前は「中国漢方」と使われたと記憶しています。
まだまだ日本では、ご存じでない方も多くいらっしゃいます。

中医学とは、中国に伝わる伝統医学で3000年以上の経験をもつ臨床医学です。人体は常に自然に影響を受けて、人体の臓器等が関連しあう(整体概念)と考えています。「望・聞・問・切」という四診(ししん)で病気の部位、性質、程度等を分析し判断したり、適切な治療方法(漢方薬・鍼灸など)で治療する(弁証論治)という特徴をもつ医学です。

この特徴として、一つは症状の特徴を重要視しています。症状は体の中の変化を反映するもので、症状の特徴から病理状態等を分析します。
二つ目の特徴は、漢方薬は症状に対する治療薬ではなく、病因病理を治療するものです。

中医学は、弁証と論治を含めていますので、よく「中医薬学」とも呼ばれています。

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瘀血と月経不順

中医基礎理論で「瘀血」は体内に停滞する血を指すとあります。
瘀血には三つの状態があり、①血液の運行が緩慢である ②血液が臓腑や経絡に停滞する ③排出されない経脈を離れた血(「離経(りけい)の血」という)の三つの状態があり、「瘀血」は病気の過程で生成される「病理生成物」であり、病を引き起こす「病因」でもあります。

また月経は気血と深く関与しますので、気血の調和がなされなければ瘀血が生じ、月経不順が生じます。特に月経過多は瘀血と関連し、その特徴は、経血量が多い、紫色や血塊が混ざる、腰或いは下腹部に痛み、舌は紫暗色を呈す等です。活血の方法で治療することが良いですが、中医のプロなら瘀血だけではなく、瘀血の原因を治療することを中心としています

月経過多の舌診

この写真は、紫色の斑があり、全体的に暗紅な色です。瘀血があるという舌象です。

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夏カゼの予防

最近は冷房が強くかかっているためでしょうか、「カゼ?をひいた」と聞きます。
主に肺気虚による衛気不和では、邪気が入りやすくなるので、この様な場合は玉屏風散を利用しますが、必ず効果がある場合とそうでない場合があります。

理由のひとつに脾腎陽虚の場合と、もうひとつに脾腎陽虚に痰湿を伴う場合の二つの理由が考えられます。これらの病因病理は単純な「カゼ」と異なります。
悪寒、鼻水、クシャミなどの症状を伴い「カゼ」のように思う症状であっても発熱はみられません。

しかし、ここで「カゼ」と判断すると、思ったような治療効果が中々あげられないと思います。
玉屏風散は解表剤ではなく、収斂剤に属する方剤です。
邪気を屏風(びょうぶ)によって侵入させないという名前の由来からもよく用いられる方剤ですが、その特徴は肺脾の気虚、表に邪気がある病気を治療して、袪邪しても精気を傷つけず、収斂しても邪気を取り込まない点にあります。その為脾腎陽虚及び痰湿の病証の治療には、不向きです。

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月経過多の治療と舌診

病因病機を知らなければ治療はできません。
月経過多の病因は、主に気虚と血熱で他に瘀血も関与しますが、それぞれ気虚や血熱をひき起こす病因が存在します。
特に問診に気をとられ舌診の診断を無視してはいけません。
この二つの写真をご参考ください。
20130730−2

20130730−1

上の写真は気血両虚を表し、下の写真は血熱を表すものです。
気虚の月経過多に対して、清熱涼血の方法(血熱の月経過多)で治療すると、病気が益々酷くなります。また、血熱の月経過多に補気摂血(ほきせっけつ 気虚の月経過多の治療方法)で治療しても病気が酷くなるでしょう。
同じ病気でも異なる漢方処方で治療する目的は、病理病因を治療することです。

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生理不順と中医学

婦人科疾患で最も相談が多いのが「生理不順」だそうです。月経に対する悩みや不安を感じていない方はいないと言っても過言ではないと思います。
中医学では、病名診断が大切ですので、月経に関する病証は月経過多、月経過少、月経前期、月経後期、痛経、崩漏等などの診断をしてから、適切な漢方薬を選択します。
例えば、月経過多は、周期が正常で、毎回の月経の出血量が多いことを指します。月経過少とは、周期は正常で、毎回の月経の出血量が非常に少ないことを指します。
月経前期は、月経周期が7日間程度早く来朝し、月経後期は月経周期が7日間程度遅れて来朝します。
痛経とは、月経前後或いは月経中に、腰部や腹部などに痛みを伴います。
崩漏(ほうろう)は、月経の出血量が非常に多く、また月経がなかなか終わらず、出血が長びくことを指します。
中医学の治療手順では、それぞれ症状の違いによって病名を診断してから証候を診断して、治療方剤(漢方薬)を選びます。
病気の概念に対する理解の深さによって、診断と治療が適切なものになります。

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夏の便秘と漢方

普段はお通じに問題がない方でも夏になると排便に問題が生じることがあります。
特徴は、便意が乏しい、腹部の張りは少ないもののすっきり出せない、便がいつもより硬く感じるなどです。
キーワードは「暑邪」です。夏になると気と津液(体に重要な真水)が、夏の暑邪の影響を受け消耗されとことが原因に考えられます。
気が不足すれば、排便する力が湧かず「いきむ」ことができませんし、津液が不足すれば便が硬くなって滑りにくくなります。
便秘が続くようであれば、便秘薬に生脈散や西洋人参を加えるか、お茶代わりに西洋人参を用いれば、便通作用も増し、熱中症対策にもなります。

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「舌」を見せるのはイヤ?

漢方薬を扱うところでも、「舌」の観察を重視していない所があると聞きました。
相談者も「なぜ、舌を見るの?」と不思議そうにするのだそうです。
まだまだ、日本では中医学の診断方法を理解して頂けないことを実感しました。
中医学には、「望診、聞診、問診、切診」四つの診断方法があります。四診の中でも望診は一番重要な診断方法で、主に患者の目の状態と舌の状態を観察します。そして診断のなかで目の状態と舌の状態は、患者の状態を知る上で信頼のおける情報になります。
特に薬局の漢方相談では、舌の色、形、苔の厚み、苔の色等の情報によって、病気の部位、性質等を判断する望診は欠かせません。
相談者が伝える症状が本当に正しい情報なのかを判断する上でも、舌の観察は重要です。
その為、漢方相談をするにあたり、「舌」の状態をみないで漢方薬を選択するなら、正確に病気の原因、病気の部位、病気の性質を判断して、患者に相応しい漢方処方ができるかを心配してしまいます。

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冷えがあるのに、手のひらが火照る

臨床では、テキストに書いてある通りの症状を訴える模範的な方はいません。
こんな方がいらっしゃいました。
四肢に冷えがあり、舌に歯痕、泄瀉、腰痛等の症状があるので、ここまで聞いたところで「陽虚」と判断しようとしたころ、「手のひらが熱いです」とおっしゃいました。
このような相談、結構多くてお店の薬剤師は困るのです。
陰陽両虚?陽虚?陰虚??どれでしょうか。きっと頭の中は「???」で、さぞお困りの事でしょう。
断片的な学習では、このような症状から正しいく判断するのは無理があります。
中医学のプロとしては、先ず実証か虚証かを判断して、もし陰陽両虚なら、陽虚から陰陽両虚になったか或いは陰虚から陰陽両虚になったかを分析しなければ、相応しい処方を提供できません。
また実証なら、その原因を見つけなければなりません。

このような複雑臨床情報を正確に分析して効かせるような漢方処方を出せるような人材を育成して、病気に苦しい患者に貢献したいと考えています。

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ショウガと冷え性

ショウガがお好きな方が多いようです。ショウガは冷えの改善に良いといった宣伝をよく耳にしますので、当然の現象かもしれません。
中医学には、冷えや寒さを現わす表現に「悪寒」と「畏寒」という言葉があり、悪寒と畏寒を鑑別する目的は治療にあります。悪寒は表証(感冒など)、畏寒は陽虚や気虚の特徴で、従って、表証に表す悪寒は解表、陽虚或いは気虚による畏寒は補法を用いて治療を行います。
ショウガは、中薬学では「生姜」といい、辛味で温性、発汗力が強い解表薬に属しますので、気虚や陽虚の方が長期間他の生薬と配合せず、「ショウガ」を飲み続けた場合、陽虚或いは気虚の病理状態が益々酷くなる可能性が非常に高いです。
 中医学プロならショウガの使用原則ぐらいの基本知識を当然理解しているはずです。

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陰虚の方は夏にご用心

暑邪の影響を受けやすい方は、平素から陰虚の体質があるので、この時期は特に熱中症に注意をしなければならないと思います。
臨床で陰虚の体質に暑邪が侵襲した場合、陰虚と暑邪が共に存在する可能性が高まります。陰虚では、陰液の不足によって、消痩、面紅のぼせ、咽喉乾燥、盗汗などの臨床症状が現れます。また、暑邪は夏にしか存在していないという特徴があり、また気陰を傷つけながら、湿熱の特徴を併せ持つ邪気です。
六味丸には大量の熟地黄と山茱萸が配合されています。熟地黄は補陰薬、山茱萸は収斂薬で、気滞と湿邪がある場合には、慎重に配合量の調節などをしなければならないという使用原則があります。
湿邪が盛んでいる患者に六味丸をそのまま服用させれば、湿邪が段々酷くなり、湿邪がまた気滞の病理現象を引き起こします。
継続して服用していた漢方薬も邪気の判断を誤れば、効果が得られないばかりか副作用を招きかねません。
中医学の理論を深く理解しなければ、効いても効かなくてもその理由がわからなければ、結果として患者に迷惑をかけることになります。
国際中医師アカデミーの理念は、六味丸のような状況に正確に対応でき、効果的に漢方薬を出せる人材を養成することです。

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